従業員が警察に逮捕されたとき

従業員が警察に逮捕されたとき会社としてどうするか?

従業員が警察に逮捕された場合、逮捕期間(最大72時間)は弁護士以外は本人と面会できなくなります。このため詳しい事情がわからない会社では色々な憶測や噂が飛び交います。まずはこれらの憶測や噂話しに振り回されないようにすることが大切です。この間にどうしても詳しい事情を知りたければ弁護士を通じて事実を早期に確認するか、逮捕期間から勾留期間に切り替わった時点で本人に面会して話しを聞くようにすることが必要です。

また、従業員が逮捕・送検された事案では、起訴されるか否かの決定まで最大23日間、身柄が拘束されます。そのうえで(a)不起訴(b)釈放(c)保釈のいずれかの決定がなされます。

そして、会社としてまず大切なことは、その事件が私生活上で発生したケースなのか、業務上で発生したケースなのかということを理解することが大切です。私生活上の理由で逮捕された場合は、その事件だけを理由に直接的に解雇したり懲戒処分することは難しくなります。

一般的に、従業員が逮捕されたことを会社の人が知ると、その従業員には辞めて貰いたいと考えるケースが多いようですが、逮捕されただけではまだ有罪か無罪かは勿論のこと、告訴されるか否かも決まってはいませんから、会社は軽率な判断・行動は避けるべきです。しかし、逮捕され拘留されると会社の人はその従業員と会い難くなります(警察が許可したら会える)。弁護士を使って拘留中の本人と接見するか、会社の人が警察の許可を貰って直接会うしか方法はなくなります。得てしてこのような状況のときには正確な事実が把握できず、酷いときには憶測が混じった噂話しが会社に伝わってきますから、このようなときには不確かな情報に振り回されないように注意することが必要です。

今回、私が体験したのは暴力事件で従業員が逮捕された事案でした。私に会社から相談があったとき、既に本人は逮捕され拘留されていました。ただし、会社と話しをしていて分かったことですが、本人は持病(精神的な病気)があり、どうもその持病が原因となって暴力事件に及んだようなのです(ただし、あくまでも会社の推測話し)。そこで会社の意向を確認した処、「今後また同じような事件を起こされると困るし、また従来から本人素行には問題があり他の従業員も不安に思っているから、出来れば解雇したい。解雇予告の郵便は不在中の自宅に郵送すべきか? 拘留場所の警察に郵送すべきか?」という意向と質問でした。

そこで私は「解雇するには"客観的""合理的"であり"社会通念上やむを得ない"と認められる理由が必要です。しかし現状は本人拘留中であり、警察が事実調査している最中ですから、その結論を待つ方が良く、いま直ぐに解雇することは難しいと考えます。ただし、他の従業員が不安を抱き一緒に働きたくないと言っているのであれば、本人が拘留中でも会社を辞めてもらいたいという会社の意向と理由を事前にご家族に相談し、ご家族が本人と協議のうえで本人が辞表を提出(必ず自筆)するのであれば可能です。しかし、ご家族は本人の代理人にはなれませんから、本人に代わってご家族が辞表を会社に提出することはできません。一番望ましいのは本人が釈放された後に本人と話し会いを行い、その上で本人が辞表を提出することです」とお答えしました。いずれにせよ、本人自らが拘留中に辞表を提出しない限り逮捕されたという理由だけで会社を辞めさせることは難しく、警察の調査で事実関係が明白となった後であり、かつその理由が"社会通念上やむを得ない"と認められる程度のものでなければ会社は一方的に会社を辞めさせる訳にはいきません。

今回の案件では、会社責任者が警察に行き本人との接見を申し込むと許可され、本人と直接話しをした結果、その場で本人が辞表を書いて提出したので、直ちに離職手続きをすることになりました。

因みに、前回に私が体験した逮捕事件は「インターネットに児童ポルノをアップし他県の県警に逮捕された従業員さん」の案件でした。この事件では、会社は堪忍袋の緒が切れる位に判決が出るのを待って、その上で本人と話しをして自己都合退職してもらうことになりました。

更に前には、「家宅不法侵入罪」で逮捕された従業員さんの事件も体験しました。

世の中が便利になり、自由度が増し、人間が以前よりも感情的になり易くなった("忍耐度"が低下した)現代では、予期せぬときに事件に巻き込まれることもありますから普段から十分に注意したいものです。