労働紛争の芽

顧問先から電話で「相談したいことがあるから来て貰いたい」という依頼があったのでお伺いしました。

相談は労災事故で1年半の間を休業した後の昨年10月に復職した従業員のことでした。この従業員は労災休業中の最後の数か月間の社会保険料、雇用保険料、地方税などを会社に支払っていなかったので、復職後に会社が配慮して保険料ほかの会社立替分を分割返済する念書を交わしました。そして、この従業員が労災被災前に配属されていた部門が廃止されていたので新しい部署に復職させ、新しい仕事を覚えるように教育訓練していました。

会社からの相談というのは、この従業員が①会社立替分の保険料・税金等を念書通りに支払わないこと、②新しい配属先の部門長の指示に従わないこと、③他部門の従業員と仕事の連携が全くできないこと、などが原因で「どうしたら良いか?」という内容でした。どうも会社としては既にサジを投げたような口ぶりで、辞めさせたいようなのですが、このようなときに推測・憶測でモノゴトを進めたり、短絡的にモノゴトを進めることは厳禁です。

会社はこの従業員に対し何度も注意・指導を繰り返しており、それらを文章にして保存していました(万が一に備えて、私がそうしておくように勧めたのですが)。

そこで、本人と直接話しをして本人の事情を聴くことにしました。過去そうであったように、多分その場しのぎの言葉で本人ははぐらかそうとする筈ですから事前に色々なものを私が準備し、その場に立ち会うことが必要になると思います。

どうなることやら、今後の展開が心配です・・・。

2月に入って「木の芽どき」となりましたから、これから紛争や相談事が増えるシーズンとなりました。

 

(後日談)

前記した相談があった日の午後に、社長、総務部長、直属の上司と私が集まり本人を呼びだして、上記①②③を書面にして「このままでは会社の規律を維持することは困難と判断するので懲戒処分の検討を開始する旨」を本人に言い渡しました。

そうした処、1日おいた日に本人が家族と相談のうえで退職願を提出してきたという連絡が会社からありました。そこで、私は会社に「万が一、本人の気が変わり、退職願を撤回するといけないので直ちに辞意受理通知書を交付するよう」にアドバイスし、会社は辞意受理通知書を直ちに交付しました。これで本人が万が一辞意を撤回してきても会社が承諾しない限り辞意は有効となります。

そして、直属上司が言うには「退職日は2月末と退職願に記載されているが、会社の機密情報を保護するため、また本人の再就職活動を支援するために、明日からでも休ませても良い」ということなので、私は本人に年次有給休暇の残日数が無いことを確認したうえで総務部長に「直ちに休業命令書を交付する」ように依頼しました。こうすると休業期間中は通常の賃金よりも少額な休業手当(平均賃金の6割)の負担で済みます。

労災休業中にはこの従業員さんの自宅に行き5人の子供と奥様ともお話ししたので、このような処置をせざるを得ないときには子供たちに申し訳ないという気持ちで一満になりますが、一人の自覚のない社員のために会社という舟の規律が乱れることで会社が転覆してしまい、他の社員が露頭に迷うことになるのを防ぐためにはやむを得ない処置だと思います。