その残業時間数は正しいですか?

令和5年4月1日から一般企業でも月60時間超の残業(時間外労働)に対し150%以上(従来の125%

+新たな25%)の割増賃金を支払うことが義務付けられます。

働き方改革が推進されている結果として、大半の企業では既に月60時間超の時間外労働は発生しなくなっていると推測していますが、業種や職務・業務によってはそうでもないようです。サービス業や営業職等でまだまだ対応しきれていないケースが多見され、特に労基法の時間外労働上限規制が猶予されている建設業、トラック・タクシー・バスの運転手、医師等でも対応が遅れているようです。

過去に私が大企業で上記の割増率変更に対応した経験によると、この割増率改正に対応するには「就業規則で新しい割増率を定め」、「代替休暇制度を採用する場合には労使協定を締結すれば良い」のでさほど煩雑ではないのですが、実際の運用面になるとかなり煩雑になることもありました。特に「代替休暇制度」を導入すると、それを管理することが非常に煩わしいことになることもあるようです。そして、そもそも集計した残業時間数が正しいものなのか否かという問題にも遭遇してきました。

昔しからタイムレコーダーを導入して労働時間数を集計させている会社は沢山ありました。しかし、個別労働紛争等の解決をお手伝いして体験したことは、タイムレコーダーの初期設定が正しく出来てないことが原因となり、また営業職等の従業員さんが予期せぬ働き方をしていることが原因となるなどして、集計結果が正しくないケースが大半を占めていました。

また更に、そのようにして集計された労働時間数をあくまで給与計算事務の為だけに使用し、労働時間数管理の為には使用していなかった企業さまが大半のようでした。

昨今の働き方改革推進により、タイムレコーダーではなく勤怠管理ソフトを導入された企業さまも多いようですが、勤怠管理ソフトのプログラマーさんは労働諸法とその企業の勤務原則(就業規則)と勤務実態に関する知識が乏しいこと、一方で企業の担当はソフトに関する知識が乏しいこと他により得てしてコスト面からの判断でソフトを選択し多忙なことからその初期設定の際に余り時間を割いていない結果として、勤怠管理ソフトを過信していると必ずしも正しい残業時間数の集計ができてないケースが多発しているようです。そして一番厄介なのは、企業の成長と共に従業員さん達の勤務実態も変化していくことです。これを防ぐ為には、勤怠管理ソフトを過信することなく、勤務実態・就業規則・法律を理解している人間の眼で必ず集計結果を確認することが必要です。

勤怠管理ソフトやタイムレコーダーは、労働時間の集計を簡易にしてくれる道具にしかすぎず、労働時間を管理し問題や課題を発見するのは人間です。

そして更に、労働力人口が減少し始めたいま求められているのは労働生産性を高めることであり、労働時間数を把握して1時間当たり(又は1人当たり)の労働生産性が向上する努力(工夫/改善/改革)をすることです。労働時間数が正しく把握されてなければ、この求められているコトを実行しようにも実行できず、次第に時代に取り残される(企業間競争で淘汰されてしまう)ことになります。

私はこの1時間(又は一人)当たりの生産性の変化を確認するやり方を約15~16年前から、特に事業再生が必要な企業さまに時間軸の意識を持って頂く為に実践してきました。

集計された労働時間数をあくまで給与計算事務の為だけに使用して労働時間数管理の為には使用していなかった企業さまは、勤怠管理ソフト導入を云々すると同時に、集計された労働時間を労働時間数管理と労働生産性管理の為に使用する仕組み創ることが大切ではないかと私は考えています。

因みに、私の顧問先では月の途中で勤怠管理を集計して残業時間数の把握をし、上司に注意指導等を促している会社さまが多数あります。また更に、勤怠管理ソフトで労働時間数を集計させているものの私に依頼され私がその集計が正しいか否かをチェックしている企業さまもあります。

単に売上や利益の絶対額が増えたかどうかだけを検討するだけでなく、それらの数値(特に付加価値)を労働時間数(又は従業員数)で除してその変化を確認することにより、自社の生産性がどのように推移しているのかを把握する習慣を持つことが大切です。売上や利益は納税の都合から比較的昔しから正確に把握されるようになっていますが、労働時間数の把握という面は比較的なおざりにされてきたのではないかと私は思います。その為、売上や利益だけでなく、勤怠管理ソフトを過信することなく労働時間数を正しく把握する仕組みを社内に設けることが大切であると考えます。