昨日、広島県社会保険労務士会の研修があり、メンタルヘルス不調者に対して会社が注意しなければならないことを東京から来られた木村恵子弁護士からお聴きしました。
実際、ここ数年、メンタルヘルス不調者が急増していることには驚くばかりの状況ですから、大変に役に立つ研修でした。
メンタルヘルス不調の一番の原因は「長時間労働」にあると考えられていますから、労災認定の際にも一番先にタイムカードをチェックされることは言うまでもないことです。
特に、顧問先でもよく聞くことですが、「会社は早く帰れと言っているのに、従業員が勝手に居残り残業をしている。従業員自身が勝手にやっているのだから会社には責任が無い」という意見は、紛争となり裁判が始まると全くと言って良いほど意味のない主張と見做されてしまうことに注意すべきです。
司法の世界(裁判)では、会社は従業員に対して「安全配慮義務」と「使用者責任」とを負っており、会社は「予見可能性」と「結果回避可能性」を基に災害防止措置をとることが義務付けられていると考えられています。
最高裁平成12年3月24日判決「電通事件」の判決では「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う」となっています。そして、このことは労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)にも記載されています。
そのため、「会社は残業の多い従業員に早く帰れと指示していた」だけでは不十分で、メンタルヘルス不調に陥る可能性が予想される(=予見可能性)場合は、仕事量を減したり配置転換等の措置を取ること(=結果回避可能性)が必要となります。「会社は"早く帰れ"と言っていた」「本人が勝手に残業していた」では済まないのです。そのため、各従業員のタイムカードを元に各自の時間外労働・休日労働時間数をチェックすることが必要となっています。
また、メンタルヘルス不調者から労災の手続きを依頼され、労災申請書の内容を会社が迂闊に証明してしまうと、それが後日の裁判で相手方(従業員側)に使われて、会社は著しく不利な状況に陥ることもありますから、労災申請書類の事故発生経緯について会社は軽率に証明をしないことが肝要です。私の過去の体験からも、このことは断言できます。ただし、労災として認定されるか否かは会社が判断せず、会社は労災申請書を提出し、その判断は労基署に委ねなければ、下手をすると労災隠しとなってしまうことも注意すべき点です。
そして更に、メンタルヘルス不調者を"メンタル不調を事由"に普通解雇や懲戒解雇にしないことも大切です。状況にもよりますが、まずは休職制度を利用して休職させ、休職期間が満了した後も"暫くは治癒する見込みが無い"限りは解雇を避けた方が無難(裁判で争うと解雇無効とされてしまうリスクが高い)のようです。
この数年間、私にもこのような相談が急増し色々な体験をしました。いずれの場合も会社のハヤル気持ちを押えてもらい、時間をかけて出来る限り円満な解決となるよう努力してきました。裁判を体験したことがなく、判例も読んだことが無い会社の人達からすると私の進め方が"歯がゆい"と思われたかも知れませんが、会社を守るためにはやむを得ない処置ばかりでした。
しかし、「面倒くさい世の中になったナ!! 迂闊なことが言えない・出来ない時代だナ!!」というのが私の実感です。
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