法改正後の60歳時の賃金改定

昔から60歳定年到達時に賃金を改定する企業から依頼があり、今年11月に60歳になる従業員の賃金を検討することになりました。法改正後、この企業は定年60歳の基準適用企業なのですが、既に60歳を超えている人達の賃金とのバランスから今回60歳になる人の賃金も改定する必要があるということでした。

とは言うものの、今年4月以降に60歳になる人は当面61歳までは年金が貰えませんから、昨年までと同じやり方で60歳以降の賃金を試算する訳にはいきません。

しかも本人は通勤事情から60歳以降は短時間勤務を希望していることを会社責任者から聞きました。そして、この従業員から「片道約1時間半以上の通勤時間を要するため、早朝5時に起きて出社し、帰宅するのは21時~22時となる毎日を過ごしていたので、通勤が苦になっている」ことも聴きました。

この人から年金調査の委任状を貰い年金事務所で年金を調べて、この人は大学を卒業してから転職を1回だけしているもののズ~と企業年金基金に加入し続けた人でした。そのため厚生年金からは年間約10万円程度しか年金が支給されず、残りの年金は企業年金基金と連合会から支給される見込みでした。企業年金基金からの年金は代行部分に相当する年金額と加算年金とがあるので厄介です。

このような人の場合には、60歳以降の勤務時間数を週30時間未満にして社会保険に加入せず(任意継続被保険者となる)、年金を全額貰うことが一番の得策なのですが、会社責任者が「それでは仕事ができなくなる」と言って、その案は拒否してしまいました。

そこで仕方なくソフトを使用して色々と試算をすることにしました。

既に60歳を超えている従業員さん達の時間単価と極端な不公平が生じないように配慮しながら、また企業年金基金の加算年金は65歳までの在職中は支給されないことにも注意して、本人の年金額とハローワークからの高年齢雇用継続給付金の額を加算した実質的な本人の手取額(可処分所得)が本人の希望する額を下回らないように試算していきました。

その際に、通勤手当が3万円を超えていたため、年金や高年齢雇用継続給付金を含めた手取額(可処分所得)と企業の人件費負担の軽減を検討する際のボトルネックとなってしまいました。

アアでもない、コウでもないと試算を繰り返して辿り着いた結論は、

①一番良いのは週30時間未満の勤務となり社会保険に加入しないことで年金を全額貰えるようにすること(この場合、会社から20万円相当の賃金を貰うと本人の手取り額(可処分所得)は今までよりも増額する)、

しかし①が無理なのであれば

②60歳から61歳の間は週35時間(1日7時間)勤務として月給を〇〇〇円とし、61歳以降は週30時間(1日6時間)勤務にして月給を△△△円とする。

という2段階で賃金改定を行う内容でした。

今年4月以降60歳になる人は年金が貰える年齢が徐々に引き上げられることになり、片や

60歳以降に賃金が75%未満になるとハローワークから高年齢雇用継続給付金が支給されます。その為、60歳以降年金が受給できる年齢になるまでは高年齢雇用継続給付金だけがハローワークから貰える可能性があるため、60歳以降年金が受給できる年齢に到達するまでは厄介です。また既に60歳を超えて60歳のときに賃金改定を行った人達とのバランスも考えることが必要ですから、今後は60歳以降の最適賃金の提案は今まで以上に面倒な試算をする必要があるようです。ましてや、この人のように60歳以降は社会保険に加入し続ける短時間勤務者になることを希望すると更に厄介です。