会社の吸収分割のお手伝い

 毎年3月末から4月初旬にかけては入退社が多い時期ですが、その中で会社を吸収分割するお手伝いをしました。コロナ禍は収束の兆しを示しつつありますが、企業体力を消耗し切ってしまい自力だけでは再スタートを踏み出せない会社があるようです。私はリーマンショック後にも数件の吸収分割のお手伝いをしたので、その要領は習得しているつもりでしたが、法改正が著しく、マイナンバー制度も導入され、かつ電子申請も普及した昨今の状況を考え、最新の知識を得るべく再確認した上で着手しました。

 今回は従業員数約300人規模の会社さまからのご依頼で、被保険者数は雇用保険が約140名、社会保険が約120名、社会保険の被扶養者数が約70名で吸収・分割というよりも新設・全部譲渡と考えた方が実態に近い内容でした。

 今回は弁護士さんが既に内容の詰めを行っていました。私が譲渡契約書の内容を確認した処、債権債務は銀行への債務を除き一切の債務を譲渡する契約となっていたので通常のM&Aの際に最も気遣う未払い残業代は心配しなくても良い状態であり、従業員さん達から既に転籍同意書を提出させていましたから私は雇用保険・社会保険・労働保険の手続きを代行するだけなので、リーマンショックのときと比較すると難易度は低いものでしたが手間暇と気苦労は変わらない状態でした。

 しかし、ご相談いただいたのが3月中頃、譲渡日は4月1日ということで、準備期間が2週間程度しかない為、情報収集と行政との事前打ち合わせで翻弄させられました。社会保険の新規適用事業所の設置手続きだけでも、通常ペースで処理していると申請してから最低2週間は必要と言われていますが、ご依頼いただいて2週間で喪失・取得手続きを行う為には、年金事務所やハローワークとその事務センターの絶大なる支援が必要となります。

 最初のステップしとして、年金事務所、ハローワーク、労働局と譲渡契約書を元に事前打ち合わせを行い、法人格の同一性がそれぞれの行政で認めて貰えるか否かを相談します。法人格の同一性が認められるか否かで手間暇は倍/半分となりますから説明には熱が入ります。

その結果、年金事務所は別法人の扱い、ハローワークと労働局とは法人格の同一性を認めて貰えそうなことになりました。その為、ハローワークと労働局とは変更届を提出するだけで済むけれども、社会保険(年金事務所)だけは新たな適用事業所を設置して旧会社から新会社に従業員と被扶養者とを異動(喪失と取得)させる必要があることになりました。

 また同時に、年金事務所とハローワークから被保険者一覧を提供して貰い、被保険者一覧と会社から提供された従業員名簿との照合を行います。このとき、ボトルネックとなるのは年金事務所が被保険者一覧を提供してくれるのに日数がかかるということです。予期せぬ人が被保険者(特に被扶養者)となっていたことが判明することが意外にあります。

 以上のことを固めたうえで、会社から従業員と被扶養者の情報を提供してもらい、予め電子申請用のデータを作成しました。このとき注意しなければならない点は、配偶者の年収・被扶養者の同居の有無ほかです。そして、リーマンショックのときは電子申請ではなく書式で申請しましたから大変な労力を必要としましたが、今回は電子申請だし雇用保険の異動は手続きしなくても良いので、リーマンショックのときと比べるとかなり楽でした。しかし、案の定、ご家族(被扶養者)についての情報(フリガナ、同居有無、年収、マイナンバー他)が十分/正確に提供されなかったので、この点で苦労しました。そしてまた、このような時には社内が動揺し、正確な情報が私に伝わらないのは何時ものことでした。そして更に、予期せぬ退社やその変更等もありました。

 しかし、なんとか3月末までには電子申請用のデータを作成し終え、4月1日に全ての送信処理を行うことができました。そして、この時に注意すべきは、譲渡元企業と譲渡先企業とでは年金事務所の事業所記号番号が異なり、かつ、今回のように譲渡先企業が年金事務所での新設事業所の場合において短期間で従業員と被扶養者との異動を行う場合は事業所記号番号を仮の番号で行うので、その点を年金事務所とその事務センターとに十分に打合せをしておくことが必要です。

 以上の処理を3月下旬から4月1日にかけて行った結果、4月6日頃から段階的に資格の喪失と取得、被扶養者の資格取得等のデータが返却され始め、いまは大半のデータが返却されていますが、特に大きな問題はないようです。

 他の顧問契約先の業務に支障をきたすことなく上記の手続きができたのでホッとしたいところですが、この吸収分割の後始末をしながら次は障害者雇用納付金・調整金制度の集計に取り掛かります。