生産性向上の第一歩

働き方改革が推進され生産性向上が求められる中で、各社とも色々な努力を始められています。また、その為の助言を私も各社に行っています。

ただ気にかかるのは、本来の生産性向上という目的を失念し、残業時間数を削減することが目的化してしまい、従来の仕事のやり方・考え方を変えずにただ単に早帰り運動等を行った結果として業績を著しく悪化してしまった会社が散見されることです。

ところで、古い諺でも「火事場のクソ力」というように「人間は集中力を発揮すると、その人の持つ本来の力の何倍もの力を発揮することができる」と言われています。そして、その為には「集中力を発揮・継続できる環境」を整えることが必要だと私は考えます。そして、(会社や職場を火事にしてはいけませんが)、従業員を動機づけし従業員の心に火をつけることは必要です。

また、会社の仕事は複数の人間が力を合わせることで「1+12」となるものであり、「1+12」となる組織は非生産的(単なる「烏合の衆」)と組織論では言います。しかし、会社組織の中で仕事をしていると、同僚から声を掛けられて仕事を中断せざるを得なくなること、仕事中に予期せぬことを上司から依頼され仕事を中断せざるを得なくなること、電話が掛かってきて仕事を中断せざるをえなくなること、周囲の人の動きや会話で仕事に集中できなくなってしまうこと等々、なかなか集中力を持続させることが難しいのが現状で、うっかりすると「1+1」となっています。

私の体験上で言えば、「生産性を向上させることは難しいコトではない。IT化を推進して膨大な経費と時間を費やすことも必要かも知れないけれども、まず最初に行うべきことはその人が集中力を発揮し継続できる環境を出来る限り整えることを行う必要がある」と考えます。

そして同時に、過去の仕事のやり方の中から「ムダを排除すること(時代や技術の変化とともにムダとなってしまったコト)」を実行することが大切と考えます。ただし、そのときには部分最適とならない為に全体最適を考え、全社における仕事のやり方(特に分担の仕方)を再検討することが必要だと考え助言しています。そして、最初に助言するのは「ムダな会議・報告書は止めること。会議・報告書の内容を有意義な内容にすること」です。

因みに、今から約30年位前の記憶のため正確な記憶ではありませんが、「トリンプという会社は、午前10時から正午までの間は上司や同僚に話しかけてはならないし(上司から部下に話しかけること・指示を出すことも禁止)、電話を掛けても取り次いでくれない。そうすることでこの時間帯は従業員が集中して仕事ができるようにし残業が発生するのを防止している」と聞いた記憶があります。当時の私は小規模な会社の社長をやっており、売上を伸ばす為に長時間働くことが一番の早道であると考えていましから、当時はトリンプが行っていることの意味がよく分かりませんでした。しかし、今は社会保険労務士となり会社の外から会社の内部を客観的に観ることができる立場となったので、よくその意味が分かります。

その為、約10年前頃から御依頼のあったクライアント様には「1日当たりの生産性だけでなく1時間当たりの生産性も大切な要件です」とお伝えし、その支援と助言を行ってきました。

そして、私の場合、社会保険労務士となって暫くは自宅を事務所としていましたが、どうしても集中力を発揮・持続することが難しく深夜まで仕事を行っていました。そこで集中力と守秘義務のため数年前に自宅以外に事務所(私一人だけの空間)を構え、遅くとも午後8時で仕事は打ち切り、その後は自己研鑽の時間とすることを原則にしました。また、クライアントとのやり取りも「電話を掛けた時に相手の仕事(思考)を中断させることになる(電話はある意味での暴力)から、基本的にメールでのコミュニケーションを中心とし電話するのは必要最低限にして、電話するよりも直接お会い(現場主義)して電話では伝わらない微妙な機微も読み取るようにしよう」と心がけました。そして、その上で色々な業務ソフトを導入し、それらを計画的に使用することで生産性を高めたいと考えました。また、私一人では期限までに処理しきれない量の仕事があるときに限り、クライアントの許可を得た上で信頼がきる体験不足の社会保険労務士に協力してもらうことにしました(ただし、このときは明らかに私の生産性は落ちて「1+12」となっているようです)。こうすることで、「自分が考える時間」と「集中する時間」とが確保できるようになり、それを持続することができるようにました。

その結果、冒頭でも記載しましたが、私は「生産性を高めるためには人間の集中力を発揮・継続できる環境を創り出すこと」がその第一歩だと思います。ただし、これだけだと恰も精神論で終わる可能性が強いので、その他の視覚的に具体的な対策も講じていく必要はあるとも考えます。