年金事務所の未適事業所

法律で社会保険に加入することが義務付けられているのに加入していない会社のことを未適事業所と呼びます。未適事業所でよくあるのは、理美容室などサービス業の一部業種や農林漁業などを個人で営んでいた人が、税理士さんから税金が有利だと勧められて法人(株式会社、有限会社等)にして社会保険は未加入のままでいるケースです。また、従業員を一人も雇わず社長とその家族だけで経営している法人でもよく見受けられます。個人事業として経営していれば社会保険に加入する義務が無かったのに、法人にした為に加入義務が発生し、そのことを誰からも説明されていなかったので知らないままでいる社長さんは意外と多いものです。

この社会保険加入問題を解決するためには、誰を社会保険に加入させなければならないのかを具体的に特定させることが大切です。賃金総額に保険料率を掛けて概算保険料を試算するだけではなく、特定して具体的な保険料を試算することが大切です。何故ならば、非常勤役員などで就労の実態が無い人やその会社が定める所定労働時間と日数の四分の三未満しか勤務しない人(パートさん等)は加入させる必要が無いからです。このとき、意外とネックになるのが、始業・終業時間や出勤日数が予め決められてない場合が多い(雇用契約の内容が明確でない)のです。このような場合は、過去のタイムカード等から勤務実績を調べさせて頂きます。

今年1月にご相談いただいた会社は約90人規模でしたが、年金事務所の指導を受けて今回から社会保険に加入することになりました(よく今まで法律を知らずに会社経営が無事に出来ていたものだナ~と感心した次第ですが・・・)。この会社は社会保険のことを知らなかった状態ですから、就業規則や36協定のこと等、法律上色々と会社が守しなければならないことを知らなかったことは言うまでも無いことで、労働条件が不明確であったために2月はこの会社の体制整備に私は翻弄させて頂きました。ただし、この会社で一番厄介であったのは、会社が全く知らなかったのではなく、自己流に勝手解釈して"知っているつもり"になっていたことです。この「知ってるつもりの知識」を「正しい知識」に修正して頂くときに、思わぬ抵抗がある場合が多いのです。

こうして社会保険加入手続きの準備を進めていくのですが、そこで忘れてはならないのが従業員さん達への説明です。従業員さん達も今後は賃金から社会保険料を控除されますから、社会保険に加入した場合のメリットを説明しておくことが必要です。このときも意外なことが発生します。要するに、「社会保険に加入するならば会社を辞める」と言い出す従業員がいることです。社会保険加入は法律上の義務ですから、この場合は説得するしかありません。

そして、今回は私の顧問先の卸売業者の社長から「取引先の小売店の労務相談と経営相談を受けることになったのだが、村上さんに同席して貰いたい」という依頼があったので、その場に同席しました。そうした処、やはりご相談内容は『年金事務所から未適事業所調査をうけ、過去約4年間ほど社会保険に加入するよう"勧奨"されていたが、今回は年金事務所の担当官から「今後は"指導"に切り替えます。今年中に社会保険に加入してください」と言われたのだが、どうすれば良いか?』と言うご相談でした。社会保険に加入することは法律で定められた義務ですから加入しなければなりませんが、今のまま社会保険に加入すると「会社は大赤字になる」という試算を会社相談者はしていました。そこで、認定支援機関である私は「経営体質や諸制度、場合によっては賃金水準にもメスを入れ、それらを改善することが必要であり、単に社会保険に加入すれば問題が解決するという訳ではありません。それらを焦らずに、しかし手際よく改善していき、法律を遵守する会社となり、本当の意味で社会貢献できる会社になることが必要です。ご依頼があれば私が助力させて頂きます」と申し出ました。しかし、その会話の中で色々とお聞きした会社の実態から想像すると、この会社の真の問題は先代経営者(両親)と次期経営者(息子)の親族問題に原因があるようです。

先代経営者は自分の過去の経験を元に考え、次期経営者は今の時代の考え方を元に考え、その結果、先代と次期経営者の間に亀裂が入ってしまうことはよくあることです。このようなときには、私のように社外の人の客観的で合理的な意見を参考に、会社の現状を踏まえた対策を講じていくことが大切だと私は考えます。

企業経営のバトンタッチを円滑にしていくこと、自己流の勝手解釈で「知ってるつもり」ではなく「本当のことを知ること」の(心理的)難しさを痛感する出来事でした。