従業員が顧客に殴られ怪我した(労災)

ある会社の従業員さんが顧客と口論となったので、その上司が仲裁しようと仲に割って入った瞬間に上司は顧客に強く殴られてしまい、全治2週間程度の怪我をしたそうです。

このようなときには

(a)療養補償給付たる療養の給付請求書(5号様式)・・・各県の労基署共通様式

(b)第三者行為災害届・・・各県の労基署共通様式

(c)第三者による暴行傷害事故届・・・広島県の場合

(d)治療のため休業が必要だったときは、休業補償給付支給申請書(8号様式)

を提出します((a)は病院・薬局に提出、(b)(c)(d)は労基署に直接提出)。尚、今回のご依頼で、被害者は休業していませんでしたから、(d)は不要でした。

(a)は「労災だから病院・薬局の費用の全額を労災保険で支払ってくれ」という趣旨

(b)は「他の人が原因で被災した」という申し出と「その加害者と和解したときには労基署に報告する」と誓約する趣旨

(c)は「被害者と加害者の関係、暴力行為に至った詳細経緯」の説明

です。

しかし、今回のご相談で困ったことは、事故が発生してから約1年間ほど刑事事件として争い、労災の手続きはせずに健康保険で処理していたことです。刑事事件の内容が確定したので、次に民事訴訟(損害賠償請求等)を行おうとしたときに、被災者側の弁護士から労災手続きの書類を提出するよう求められたため、1年間遡って手続きしなければならなくなりました。時効は成立していませんから、1年間遡る手続きは可能ですが、今更1年前の治療費を健康保険から労災に切り替えることに病院・薬局が難色を示す可能性が多分にあります。

もしも、病院・薬局が健康保険から労災に切り替えることに難色を示したら、

(1)取り敢えず治療費の全額を本人が病院・薬局に立替払いし、

(2)(a)療養補償給付たる療養の費用請求書(7号様式)と病院・薬局で貰った領収書を労基署に提出する

ことが必要となります。

そして、5号様式または7号様式が労基署に届いたら、労基署は事実調査を行い、労災扱い

なるか否かの判定を行います。このとき、労災認定されれば何も問題はないのですが、労災認定されなかった場合には、再度健康保険に切り替える手続きを病院・薬局に依頼することになります。

尚、仮に労災認定された場合でも、加害者と被害者に和解が成立し、治療費等の支払いを加害者が被害者に行うことになった場合、被害者は加害者と労災保険の両方から治療費を貰うことはできません。労基署が加害者に請求し相殺されてしまいます(この部分の表現は分かり易くしているため正確な法律用語での説明ではありません)。

いずれにしても、労災となる可能性がある事故・事件が発生した場合は、素人である会社の人が労災か否かの判断せず、必要書類を速やかに労基署に提出し、その判断を労基署に委ねることが賢明です。