継続事業の一括

知人からの依頼で小規模企業さんの労務相談に応じることになりました。

この会社は、広島に2カ所の営業所と熊本に1カ所の支店があります。

色々なお話しをお聴きした後に、私が「今まではどのようにしてハローワーク、年金事務所、そして労働保険料の申告手続きをしていたのですか?」と尋ねると、事務を担当されている社長の奥さんは「よく分かりません」と言われます。私は思わず「自分がやっているのに、自分がやっていることが理解出来ていないのだナ・・・困ったものだ」と思いました。そこで仕方なく、私は「過去の労務関係の書類で保管してあるものを全て見せてください」と依頼して、書類を見ることにしました。

その結果わかったことは、①入社も退社もほとんど無いに等しい会社であること、②広島の労働保険の申告事務は商工会の労働保険事務組合が処理し、熊本の申告は現地の社会保険労務士が処理していること、③年金事務所の算定基礎届は意味を理解しないまま労働保険事務組合に教えて貰いながら届出をしていること、④②のためにハローワークの処理は広島ハローワークと熊本ハローワークとで別々に行っていること、その結果、労務管理が全く出来ていない状態であること等がわかりました。

その為、私は

(a)10人未満の企業だけれども「就業規則」は作っておいた方が良いこと。

(b)10人未満なので労働基準監督署に就業規則を届け出る義務は無いが、作成した就業規則を労基署に届出しておいた方が良いこと(労働紛争が発生したとき公信力があることになり、相手方弁護士からのクレームが防げる)

(c)従業員の始業時刻と終業時刻とを記録することは法律上の義務であること。ただし、タイムカードではなく自己申告制で記録し(営業担当者が多く外出していることが多いのでタイムカードを準備しても実質的には手書きすることが多いだろうと推測しました)、備考欄にどんな仕事をして残業したのかを記録させた方が良いこと。この記録を参考にして、仕事上のムダ・ムラ・ムリを取り除くことで労働環境の改善を図る方が良いこと

(d)広島の2カ所の営業所と熊本の支店とを一括する届出を労基署とハローワークに行い、広島で全ての手続きが行えるように労務管理を一元化して、管理し易くした方が良いこと

等を説明し、了解を得たので着手することにしました。

私は今まで、「企業が成長して人数規模が大きくなると労務管理が複雑化するため事務が複雑になる傾向がある」と考えていましたが、この企業のように少人数でも支店か複数あると事務が複雑化する場合があるのだということを実感した次第です。

そこで、

ステップ(1):始業・終業時刻の記録を開始して貰う

ステップ(2):36協定を直ちに届け出る

ステップ(3):就業規則を作成する

ステップ(4):今年度末で事務組合への事務委託を解除し、同時に継続一括の届出を行うことで、次年度からは広島で一括処理し、一元管理ができるようにする。

ステップ(5):60歳以上の従業員さんは年金と高年齢給付金が貰える可能性があるから、一段落してから、給与の再検討を行う

という手順で進めることにしました。

ステップ(1)は直ぐにできるだろうと私は思っていましたが、意外に難しいのです。従業員さん達からは「どのように書けば良いの?」「何を書けば良いの?」と言った質問がでます。考えてみれば当たり前のことで、今まで始業・終業時刻など書いたことが無く、ダラダラと仕事を始めて、ダラダラと終わっていましたから、時間で区切りをつけるという習慣がこの会社には全く無いのです。ここは根気よく教えていかなければなりません。

そして社長の奥さんからは「1カ月間の時間をどの様にして集計すれば良いの?」「どうやって残業時間数を確定させれば良いの?」という質問がでました。そこで一通りの説明をした上で「私がエクセルで集計用の表(関数を使っているので始業・終業時刻だけ入力すると集計してくれる)を創るので、それで集計し始めてください。2~3カ月間はその集計結果を私がチェックして誤りがあれば直して貰うようにします」とお伝えしました。実務では色々なケースが発生しますから、一回や二回、残業時間の集計方法を説明しても理解できる訳ではありません(分かったつもりになるだけで、本当は理解できていない状態)から、数か月間の練習と指導が必要となるのです。

このような場合、私にとっては当たり前のことでも、相手にとっては未知の初体験のことですから、焦らず、怒らず、手際よく、労務管理体制を整えていかなければなりません。

私の顧問先の大半は従業員数が100名以上の規模で、シッカリした総務部があるのですが、色々な問題が発生する都度、相談に応じています。これが結構、大変なのです。しかし、今回10名未満の会社の相談に応じて、「大は大なりに、小は小なりに難しい点がある」ということを痛感しました。