賃金台帳記載事項と調査

ある会社が、来週に労働保険料計算事務の適正調査を労働局徴収課でうけることになりました。そこで労働局徴収課が予め準備するように指示してきた書類を準備していたのですが、「賃金台帳」に関して問題があることが分かりました。

賃金台帳に関しては労働基準法第108条で、賃金台帳に記載しなければならない項目が定められています。これを意外と知らない会社が多いし、市販の給与ソフトでもこの法的記載事項を遵守していないものを賃金台帳と呼んでいる場合が多いのです。

労働基準法第108条の定めによると、

①氏名

②性別

③賃金計算期間

④労働日数

⑤労働時間数

⑥時間外労働時間数、休日労働時間数、深夜労働時間数

⑦基本給、その他の諸手当のそれぞれの額

⑧賃金の一部を控除した場合には、その額

と定められています。調査では①~⑧の項目が満たされていなければ賃金台帳とは見做されなくなってしまうのです。

そして、今回の調査のためには源泉所得税控除額も明記されていることが必要です(源泉所得税支払いの勘定元帳と賃金台帳の源泉所得税額を照合するとで賃金台帳に記載されている支給総額が適正なものであるかを調査官が判断するためです)。

色々な会社でそれぞれの賃金台帳を拝見させて頂いていて、一番多いのは④労働日数、⑤労働時間数、⑥時間外労働時間数、休日労働時間数、深夜労働時間数が記載されていないケースです(実態として、残業時間数・深夜労働時間数・休日労働時間数をタイムカードから集計していない企業も多々あります)。

また、賃金台帳を見せて下さるようにご依頼した処、税理士さんの指導を元に年末調整で使用する帳票を提出する企業もあります。これなど、④~⑧の記載は無いし、通勤手当など非課税支給額が記載されていない場合が多いので、調査で要求される非課税支給額を含めた総支給額が分かる資料という要件を満たしていません。また、総労働時間の記載が無いと、雇用保険加入義務があるのに加入させていない従業員のチェックができません。

そして、更に注意しなければならない点があります。給与ソフトを過信して、「うちの会社の賃金台帳は給与ソフトにあるから毎月は印刷していないヨ!!」という企業です。給与ソフトにもよりますが、転勤・配置変え等をすると過去のデータも新しい部署に移されてしまう給与ソフトが多々あるのです。今回、調査を受ける企業が正にこのパターンでした。

今回の調査用に印刷した賃金台帳と源泉所得税納付額とが不一致なのです。原因を調べてみると、配置転換して今回の調査対象外の部門に異動した従業員、あるいは調査対象外の部門から対象部門に異動した従業員、退職した従業員等々がみつかり、これが不一致の原因であることが判明しました。今回の調査対象期間は平成24年4月支給分から平成25年3月支給分までです。それを平成25年11月の今になって調べるのですから、記憶も曖昧です。

そこで、この企業には「今後は給与ソフトを過信するのではなく、毎月賃金台帳を印刷して3年間は保管する」ことを依頼しました。

「知っているつもり」「分かっているつもり」が一番怖いといこのことを言うのでしょうか?

尚、賃金台帳や従業員に交付する給与明細書に総労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数、休日労働時間数及び年次有給休暇の消化日数と残日数の記載もしてあれば、行政による調査だけでなく、従業員さんと紛争が発生してしまった場合にも役立つことが多いようです。