ミドル管理職への教育

ある会社の総務部からミドル(課長職)への教育・訓練について相談がありました。

そこで、私は対象となるミドルの日報を数か月分準備して貰い読みました。

その結果、この会社ではマネジメント技術の教育は進んでいる(日報のあちらこちらにマネジメント用語が記述されていた)が、指導者として自らを正す教育(リーダーとしての倫理・道徳教育=人格教育)が欠如していることに気づきました。また、マネジメント技術に関する知識も断片的で体系的ではない可能性があることにも気づきました。

そのため、第一歩として、カーネギーの書籍「人を動かす」のエッセンシャル版を読むように進めました。

またバランス・スコア・カードを意識して、日報は「顧客の視点」「業務プロセスの視線」「従業員教育の視線」「財務(利益)の視点」という4つの視点から日々の業務活動を振り返り記載するよう依頼しました。「日報を書け」と会社が指示しても、会社がどんなことを知りたいのかがわからなければ日報は書きようがありません。そのための目安となるのがこの各視点です。

また更に、時間管理についても依頼したい処でしたが、この会社では時間管理は出来ているようなので改めて依頼することは避けました。しかし、何に時間が喰われているかを1週間毎に顧みることをお勧めしました。こうして、非生産的な仕事を廃棄して生産的な仕事に全力集中できる環境をつくりあげていくことの必要性を説きました。

その上で、「人の上に立ち、人を導いていくリーダーとしての心構え」を改めて理解して頂くために、帝王学の教科書「貞願政要」や「論語」の一部を引用してお話しをしました。そして書籍「安岡正篤にみる指導者の条件」を読んでみるようにお勧めしました(全人格教育)。松下幸之助翁の書籍類も検討はしたのですが、事例が古いので今の若い人達にはピンとこない可能性があるので止めました。京セラの稲盛氏の書籍も良いのですが、これはもう少し時期を見てから勧めることにしました。

立派なリーダーになるためには、マネジメント技術を習得することも必要ですが、同時に自らの人格を高める倫理観と道徳観を持つことも必要となるというのが私流の考え方です。MBAが主流を占める風潮にある現代では、得てしてマネジメント技術に偏重しがちですが、人格は技術力を発揮するベースとなります。そのため、技術力を高める場合には、その土台あるいは根っ子となる人格(倫理観・道徳観)も高めていくことが必要となるのではないでしょうか? そうしなければ、沼地に高層ビルを建てようとするようなもので、いずれは地盤沈下を生ずるか、傾斜して崩壊してしまいます(部下がついてこなくなる)。

私がマネジメントの技術論以外に貞願政要や論語等のお話しを始めたときに、会社の総務責任者は大変に驚いていましたが、最後には納得されていました。カーネギーの書籍「人を動かす」の要約版、PFドラッカーの書籍解説書1冊、書籍「安岡正篤にみる指導者の条件」と3種類の資料及び書籍を総務担当者に渡し、これらを読んだうえで今後どのようにミドル教育を進めていけば良いと思うかを考え再度相談するように指示して今回のご相談を取り纏めました。

実は、こうすることが総務担当者自身への教育訓練となるのです。この総務担当者は、労基法を初めとして法律にはやたら詳しいのですが、マネジメント技術や人を導く指導者として持つべき倫理観・道徳観は苦手にしているのです。

手間暇はかかりますが、このようにして会社の教育担当の総務担当者と協働で教育訓練のプログラムをつくると、私はその会社の暗黙知となっていることがわかるし、総務担当者は自分がつくったプログラムという理由から着実・確実に実行してくれるようになります。