個別労働紛争の「あっせん」

従業員と会社との間で個人的なトラブルが発生したときに解決する手助けをしてくれるのが「あっせん」制度という「話し合いの場」です。当事者同士では決着がつかないから、中に第三者(弁護士または学識経験者)が入って和解する方法を考えてくれる場です。

私は社会保険労務士の仕事とは「トラブルを未然に防止すること」と考えていますから、あっせんに取り上げられること自体が社労士業を失敗したものと考えていますが、「あっせん」事件処理だけを依頼されることも多々あります。インターネット等が普及して情報が豊富になり、また良からぬ士業や街角の法律家モドキ等が報酬目当に従業員を焚き付ける場合が増えていますから、昔しのように「人としての道」ではなく「法律」でトラブルを解決しようとする人が増えている為、あっせんの申し込みは急増しています。

「あっせん」は裁判と違って1回(3時間程度)で終わることを原則としています。当事者同士が直接話し合いをしてもラチがあかない場合に、弁護士や大学教授が間に入って和解する方法を考えてくれる場が「あっせん」なのだと考えれば良いと思います。従来からある制度の裁判所の「和解」という手続きをもう少し身近かにしたものと理解すれば良いと思います。ただし、和解する道を探すといっても最後は金銭的な解決となるので、会社側は多少の負担を覚悟しておいた方が得策です。因みに、私の過去の経験上で会社側の金銭的負担が全く無かったのは2件だけです。

「あっせん」は、現在の処、①労働局(国)主宰のもの、②労働委員会(県)主催のもの、③社会保険労務士会等の民間ADR主宰のもの等があります。大半は無料ですが、それぞれに確認する必要があります(①②は無料)。 

「あっせん」の流れとしては、従業員が「あっせん」の申し込みを行い、それが受理されると、会社には「あっせん開始通知書」が郵送されてきます。

「あっせん」は絶対に参加しなければならないものという訳ではないので、不参加でも良いのですが、金銭的・時間的に後々のことを考えると参加した方が得策と考えます。ただし、和解する気持ちが会社に全く無く、飽くまでも「争う」考えであれば参加することは無意味です。和解を目指す訳ですから、会社側と労働者側の双方に歩み寄りが求められます。「あっせん」に不参加だったり又は「あっせん」が打ち切りとなった場合には、労働者は諦めるか、訴訟(裁判)するかしか方法は無くなります。

会社が「あっせん」に参加するか否かを考える期間は約2週間あります。「あっせん開始通知書」に記載された期日までに、会社は答弁書(同封されている)で参加意思の有無と従業員の主張に対する反論(会社側の主張)を行います。

私が受託した場合は、答弁書(案)を私が作成して、会社の人の意見を聴きながら修正して完成させます。反論(=会社側の主張)の根拠となる資料も会社に準備してもらう必要があります。これを作成する作業が意外と煩わしいのです。これに記載する事項が「あっせん」当日の会社の主張となります。原則的に、あっせん委員さんは事前にこの答弁書を読むことになっていますが、当日の心得としてあっせん委員が答弁書全てを熟読していることを期待することは無理と言えます。私の場合は、答弁書はあっせん当日に会社が主張する意見の補助手段になるものと考えています。

会社から答弁書が提出され、参加する意思表示がなされている場合には、その後にあっせん委員の選任と「あっせん」開催日の決定がなされ、会社側に連絡されます。

尚、あっせん当日に、社長の代わりに総務部長等が参加する場合や私のような特定社会保険労務士が代理人となる場合には代理人届の提出が必要となります。

また、「あっせん」に社長や代理人以外の人が参加しようとするときには、代理人を補佐する人(補佐人)として届出をすることが必要です。

あっせん和解案は金銭で和解を図る場合が多いので、当日は和解金額を決定できる人と常に連絡が取れる状態になっている必要があります(原則論としては、決定できる人が参加する)。私の過去の体験では、社長自らが参加された事例は1社だけで、残りは総務部長クラスの人が代理人になり私が補佐人となりました。部長クラスの人には和解金額の枠を予め社長から授けてもらい、それを上回る和解案となった場合には直ちに社長に連絡がとれるようにして貰いました。 和解案を会社に持ち帰り協議した後に回答することは許されず即断即決が要求されます。

私見ですが、トラブルが発生して「あっせん」や「裁判」となるよりも、それを防止してよりよい会社にしていくことが一番大切なことだと考えています。個別労働紛争の発生は決して生産的なことではありませんし、精神的にも負荷が大きくマイナス要素が多いものです。 出来れば「問題」となる前に、日頃から「課題」を見つけ出して事前に解決していきたいものです。